
岡崎京子『ジオラマボーイ・パノラマガール』新装版表紙
**【コメント】**長編二作目にして、初期岡崎の総決算的作品。色々欠陥もあるけれど、それでも岡崎の自然な持ち味が遺憾なく発揮されている。すなわち、ストーリーはいいかげん。意識的かつ露骨に他の作家の作品をパクるし、出たとこ任せの展開で、挙げ句の果てにトートツに終わってしまう。こういう作品を読むと、岡崎の「欠陥」というものは同時に岡崎の「美質」そのものではないかとすら思えてくる。「キャビアの味」って言うのがあるでしょう、或いは「珍味」かな。もの凄く美味いものは、常に、もの凄く不味いものとの境界線上に位置してるのだと、私は思う。お定まりの「ボーイ・ミーツ・ガール」ものにふりかけられた「オカザキ・フレイバー」が効く。全編に漂うブッ壊れた脱力感がチャーミング。 **【お話】**高層団地の10階に暮らす「パノラマガール」津田沼春子ちゃんは、ある夜、団地の植え込みの中でうめいていた(不良に絡まれ、ぼろぼろにぶちのめされた)神奈川健一君(一戸建てに住んでいる「ジオラマボーイ」)に出会って恋に落ちました。でも、健一君はそれどころではありません。つい今しがたショードー的に高校を辞めてしまったばかり。お先は真っ暗。一橋出の一流商社マンだったはずのオヤジはOLに狂って家に帰ってこない。お袋は入院。一緒に暮らしている姉貴は、吉田秋生の『河よりも長くゆるやかに』に出てくる俊邦君のお姉ちゃんみたいに、おっかないし、このまま優等生として人生を歩んでいったって、ろくなことがないのは目に見えている。年齢に合わない諦念を身につけ、普段は何気なくやり過ごしているつもりでも、気付かぬ間に心の澱が降り積もってゆき、ある日、臨界点に達して爆発したのです。糸の切れた凧のごとくフラフラ渋谷をさまよい歩くうち、一帯を取り仕切る関西弁の小学生(区立第三小学校)平均(たいらひとし)君に何故か気に入られ、女をおごってもらったり(ただし小学生)、その小学生の女の子からお小遣いをもらったり、憧れのスケバンの女の子とのセックスに溺れたり、レコード屋でバイトしたりと、恐る恐る「第二の人生」を歩み始めましたが、いや、まあ、それでいいのか健一君。将来はどうするんだ? 一方春子ちゃんは、同級生の女の子に突然「告白」されたり(大島弓子『さよなら女達』?)、死にかけたお祖母ちゃんに憑依されたり(大島弓子『秋日子かく語りき』?)、平均君に迫られたり、シュークリーム屋を襲撃したり(村上春樹『パン屋再襲撃』?)と、こちらも色々大変です。果たして、春子ちゃんの恋は成就するのでしょうか? (別に、しなくてもいいんだけど…) **【書誌】**●発行:マガジンハウス●初版1989.4.26●ISBN4-8387-0059-8●新装版2010.08.26●Kindle版2010.08.26●初出:「平凡パンチ」1988.3.10~11.10 **【蛇足】**何とまあ意外な事に映画化されました。2020年11月封切りですがコロナが怖くて映画館に行けません。でもその後ネット配信されたものを視聴。「絵」は好きです。原作の毒を抜いてしまったので「ぶっ壊れ感」が足りなくて自分的にはそこが不満足。でもそうだよな、小学生の平均君に小学生の女の子を奢って貰うなんていうエピソード、今やったら非難囂々で上映禁止だよな。(1999.06.13新規、改定20210626・20211125・20201213)