岡崎京子『くちびるから散弾銃』上巻表紙

岡崎京子『くちびるから散弾銃』上巻表紙

岡崎京子『くちびるから散弾銃』下巻表紙

岡崎京子『くちびるから散弾銃』下巻表紙

岡崎京子『くちびるから散弾銃』合冊版表紙

岡崎京子『くちびるから散弾銃』合冊版表紙

**【コメント】**これを推すのは個人的な思い入れからだと理解してもらってもいい。普通の意味での「作品」ではないかもしれない。ストーリーらしいものがない。23歳の三人の女が集まって延々とおしゃべりを続けるだけ。この三人というのが「東京ガールズブラボー」に出てくるサカエちゃん、なっちゃん、ミヤちゃんの高校生三人組の後の姿なのだけど、執筆年代はこちらの方が先。[Me-twin」と言う雑誌(どんな雑誌か知りません。知っている人がいたら教えて下さい。)の1987年8月号から1990年5月号に掲載されている。世はまさにバブル真っ盛りの時期で、内容としてもバブル世相観察エッセイと言ってもいい。「岡崎京子、世相を斬る」である。当時の世相を面白くない気持ち…を通り越して暗澹たる気分で見守っていた自分は、岡崎の言葉に一つ一つ頷いて、何度も読み返したものだ。そして気がついてみると、バブルのバカ騒ぎの中で疲弊した気持ちがいつの間にか静まり、落ち着きを取り戻している。なぜかは分からない。 岡崎自身にとっても、自らのテーマを探求し深めて行く上で重要な通過点であったのではないかと思う。事実、岡崎のターニング・ポイントとなった「pink」はこの「くちびるから散弾銃」の連載中に執筆されている。次のような「pink」の「あとがき」を読んでみるといい。

・・・「すべての仕事は売春である」とJ・L・Gも言っていますが、私もそう思います。然り。 それ、をそうと思っている人、知らずにしている人、知らんぷりしている人、その他、などなどがいますが繰り返します。 「すべての仕事は売春である」と。 そしてすべての仕事は愛でもあります。愛。愛ね。

“愛”は通常語られているほどぬくぬくと生あたたかいものではありません。多分。 それは手ごわく手ひどく恐ろしい残酷な怪物のようなものです。そして“資本主義”も。 でもそんなものを泳げない子供がプールに脅えるように脅えるのはカッコ悪いな。 何も恐れずざぶんとダイビングすれば、アラ不思議、ちゃんと泳げるじゃない? 「バタ足金魚」のカオル君みたくメチャメチャなフォームでも。

現在の東京では「普通に」幸福に暮らすことの困難さを誰もがかかえています。 でも私は「幸福」を恐れません。 だって私は根っからの東京ガール、ですもん。・・・

岡崎京子「pink」(1989年9月マガジンハウス刊)の「あとがき」抜粋

これはまさに「くちびるから散弾銃」の中で培われ深められていった「思想」ではあるまいか? もしあなたが岡崎の作品の内でも、「pink」→「東京ガールズブラボー」→「リバーズ・エッジ」と連なる系列の作品(これを「資本主義三部作」と名付けたいと思う)に特別惹かれるものを感じるのであれば、その「原点」として、この作品に目を通すことを強くお薦めしておきたい。 **【お話】**バツグンのプロポーションとチセツな思考回路を持つ快楽主義者、金田サカエ(女子美出身。23歳。処女)とその友人、島野夏美(貯金・恋人有りのしっかり者。デパートガール)、高田美夜子(ハードワーカーの雑誌編集者)の3人が延々と繰り広げるおしゃべり。フリーターの貧乏人のくせに物欲の奴隷と化して「かわいいもの」を買いまくる生活破綻者サカエ。二人の友人は激しく突っ込みを入れるが、サカエに反省の色無し。どうするんだ、金田サカエ? お前の老後は大丈夫か? …どうにもならんな、こんな奴。やれやれ…(更に詳しい各話の内容については「全作品レビュー」該当ページを参照のこと。) **【書誌】**上下二分冊のものと、それを一冊にまとめた合冊本の二種類が発行されている。 ●「くちびるから散弾銃」上巻:講談社1989年8月11日初版「くちびるから散弾銃2」下巻:講談社1990年4月23日初版「くちびるから散弾銃」合冊本:講談社1996年7月23日初版「くちびるから散弾銃」合冊本:講談社コミッククリエイト2012年6月6日 現在入手しやすいものは合冊本。ただし、これは先に刊行された上下二巻本とは次の点で内容が異なっている。 上下二分冊本の上巻に収められていた「MON.24th,Oct.日本晴れならエトランゼ」が削除されている。 エピローグとして新たに「くちびるから散弾銃’96」が書き下ろされ付け加えられている。 後に描かれた「東京ガールズブラボー」との整合性を保つために若干の修正が加えられている。 新たに8編の「随筆・私の東京日記」が特別付録として随所に挿入されている。 この改訂については色々思うところもあるのだが、このページでは触れないことにする。 (1999.06.09新規、改訂:1999.06.10・1999.06.14・2003.11.02・2021.12.25・2022.02.22)